情報システムセミナーレポート[2019年 秋] 経営管理 経営トップの果たすべき役割とその実践法

2019年11月13日(水) 東京会場

B51
15:20〜16:30
経営トップの果たすべき役割とその実践法

疋田 文明 氏
元気塾 主宰

1980年代には『企業の寿命30年説』でしたが、いま企業の平均寿命は23.5年と言われています。さらに、日本企業は収益力・生産性が低いとも言われています。
原因はどこにあるのでしょうか?多くの企業では、問題の部分を解決するためにその部分だけを最適化することが良くあります。しかし、部分最適の組み合わせでは全体最適にはなりません。『全体最適のプロセス』を構築することが経営トップのいちばんの仕事ですが、そのためには、まず、経営の全体像を理解しなければなりません。
そこで当セミナーでは、自社の問題点を把握し優先順位付けをするとともに、「何をやるか」だけではなく「何をやらないか」を決断して成功した事例をご紹介しながら、経営トップが常に意識すべきことについて解説します。

勇気を持って不採算事業から撤退せよ

小型直流モーターで世界トップのマブチモーターの創業のひとり、馬渕隆一さんとは月に1回は会って経営談義を重ねました。その中で「必要利益とは何か?」という話になり、「業績が悪化しても、従業員に安心して生活できる給与を支払い株主に安定配当する内部留保を厚くしていく利益」という結論になりました。小型モーター一本槍で世界市場を戦うのは容易なことではありません。価格競争に巻き込まれる恐れもあります。しかしそこに経営資源を集中させることで、どこよりも安く、なおかつ高性能の小型直流モーターを開発することで、必要利益を継続して計上する経営に専念しました。

建機世界トップの米キャタピラーに利益で大きく差をつけられていたコマツは不採算のディーゼルフォークリフトから撤退し建機に集中することで、今ではキャタピラーに肩を並べる利益水準を達成しました。不採算撤退を決断できる経営者は事業を捨てる勇気を持っていますが、できない経営者は優柔不断です。本業に生産性を高める努力を集中させることで、他のどこにもない優れた製品が生まれるのです。

収益力の低い企業はたいてい従業員のモチベーションが低く経営者が一人ひとりの能力をうまく引き出していません。これでは収益力や生産性を高められるはずがありません。一番の問題は部下を育てられない上司が多いことです。自分の仕事で優秀な成績を収めたからといって上司にさせれば、部下の仕事を奪って自分でやってしまうでしょう。それでは部下は育たずモチベーションも下がります。自分の仕事に対する能力と部下を育てるスキルは別物なのです。仕事ができる人ほど若い人を潰してしまいます。

人事の神様といわれた松下幸之助さんは「仕事で実績を残したからといって部下を持たせてはいけない。上司になる人は見識がないとダメ」と言っています。西郷隆盛は南洲翁遺訓の中で書経の「徳懋(さか)んなるは官を懋んにし、功懋んなるは賞を懋んにする」(徳に励んでいるものは官につけて、誠心誠意励むようにさせ、仕事につとめているものは賞を与えて称賛し、より努めさせる)を取り上げています。前述の馬渕さんは「部下を持つ人の再教育が必要だ。たいへん難しいことではらうが、教育すれば何とかなる」と言っています。

日本企業の収益力が低く全体最適になっていないのは組織力を発揮できていないからです。全体は部分の総和を超えなければなりません。10人いれば10人以上の仕事ができなければ組織の意味がありません。仕事が部門ごとに分かれていると、それぞれの部門が一番いいやり方で目標達成を目指します。たとえば営業と経理の場合、与信管理で経理は厳格化を求め、営業は新規をとるために緩めを求めます。このように組織は放っておいたらバラバラの部分最適に陥ります。

個人の総和が全体を超えるために、個人にはマルチスキル、多能工になってもらうことが生産性を高める秘訣です。良い例が星野リゾートで、フロントの人は朝7時に出社したら、すぐにフロント業務はないので朝食会場を手伝い、午後はベッドメークを手伝って3時には帰るというマルチタスクを進めた結果、生産性が上がり、従業員の働き方改革にもなっています。静岡県の建設会社、平成建設(沼津市)は1人1人が「とび職・型枠工・土工を1人でこなす職人」や「設計と現場監督を兼ねる大工」など多能化し、与えられた局面に柔軟に対応することで、仕事の効率を高めるとともに無駄を排除しています。

ただ、注意しなければならないのは、人数が増えるほど1人の力が低下することです。チーム力を発揮するために1人1人が同じ方向のベクトルを持って知恵を結集させることが大事です。沖縄の総合スーパー、サンエーを創業した折田喜作さんは「もっといい方法がないか考えよう」というのを社内の標語にしました。1年近くたってみんなで考えることができていないとみて2年目も同じ標語にしました。それでもダメなので3年目も同じ標語にしようとしたら、社内から「考えろと言っている社長が一番考えていない。今のサンエーに問題はありません」と反発の声が上がった。これに折田さんは激怒、「問題がないことが大問題だ」と怒鳴ったといいます。挙句は会社の玄関にロダンの「考える人」の彫刻(レプリカ)を置きました。

組織ぐるみでいかに知恵を絞るか、そしてそれを行動に移すことが大事です。島精機製作所の玄関にはロダンの「考える人」とボッティーロの手の彫刻「ラージハンド」が飾られています。考えることと実際にやってみる行動を促すシンボルです。そして考えと行動が実を結ぶためには勉強が欠かせません。論語に「吾れ嘗(かつ)て終日食(く)らわず、終夜寝(い)ねず、以て思う。益(えき)なし。学ぶに如(し)かざるなり」とあります。

山本七平は「日本人の人生観」の中で「質の良い記憶の量を増やせば増やすほど、その人間の発想の総量は増えていく」「天才とは、普通の人が絶対に結びつかないと考えている二つ以上の概念を結びつけて、新しい世界を開く人」と書いています。本田宗一郎さんは戦前戦中、自動車部品のピストンリングの新事業に取り組んだとき、自分に鋳物の知識がないと気づくと、迷わず浜松高等工業学校(現・静岡大学工学部)に入学し勉強に励んで試作品をつくり量産までこぎつけました。

試行錯誤は「意図的な失敗」です。仕事は何とか知恵をひねり出そうと問題意識を持って取り組む人に無限のチャンスを与えてくれます。逆に漫然としていたら何も教えてくれません。東芝を再建し財界総理といわれた土光敏夫さんは「自分の会社、部門のあるべき姿を思い描く。現実とはギャップがある。それを認識することが問題意識を持つということだ」と言いました。作家の橋本治さんは「上から下へ、下から上へ、風が吹いているのが日本企業の強さ」と名言を残されましたが、今、大企業の不祥事でよくあるのは下から上へ吹く風が途中で止まってしまうこと。そして風はサプライチェーンなどを通じて横へも流れないとチーム力につながりません。

経営者は異業種から学ぶという姿勢も忘れてはいけません。自分の業界しか知らないでいると競争相手と同質の競争に巻き込まれ、結局は価格競争に陥ります。小売業世界一、ウォルマートの創業者、サム・ウォルトンはデミング博士が製造業向けに書いたQC(品質管理)サークル活動の本が愛読書でした。流通業界トップ企業のトップが製造業から学んでいるのです。トヨタ生産方式のジャスト・イン・タイムは、スタート時にはスーパーマーケット方式といっていました。今の経営者は肝に命じて、異業種からしっかり学んでほしいと思います。

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