情報システムセミナーレポート[2019年 秋] 会計管理 儲かる企業はどこが違うのか? 会計を経営に活かす

2019年11月14日(木) 東京会場

C11
9:40〜11:00
『会計を経営に活かす財務分析』シリーズ 第1弾
財務指標によって経営を分析し改善につなげる — 収益性編 —

金子 智朗 氏
ブライトワイズコンサルティング合同会社 代表社員 / 公認会計士 / 税理士

企業は利益率や回転率など様々な指標を財務分析に使っていますが、必ずしも有効に活用されているとは限りません。ROAやROE、利益率などの計算式の意味を考えずに数値を機械的に当てはめて計算しているからです。計算式の意味を理解していないと、全く意味のない計算しているだけになります。『会計を経営に活かす財務分析』と銘打ったシリーズの第1弾となる本セミナーでは「収益性」に焦点を当て、財務指標を活用して経営・事業を読み解き「儲けている企業はどこが違うのか」など改善につなげるためのポイント、考え方を解説します。

計算式の意味を考え、使いこなして経営に活かす

財務指標の計算は制度ではありません。制度なら計算の方法や答えは一つですが、財務指標にはいろいろな式がありえます。正解・不正解で言えばどれもが正解ですが、意味が違うのです。したがって、分析者が分析目的に応じて式を使い分けなければならないのです。さらに言うと、自分たちがやりたいこと、進みたい方向に合致するオリジナルの指標を創り出すことも可能です。

それではまず財務分析にはどのような分析の切り口があるかを見てみましょう。「どれだけ儲けているか」を分析する収益性分析、「どれだけキャッシュの支払い能力があるか」を分析する安全性分析、「どれだけ経営資源を活用しているか」を分析する生産性分析、「どれだけ伸びているか」を分析する成長性分析、「どれだけ株主に経済的還元をしているか」を分析する株主関連指標分析があります。
今回は、この中の収益性に焦点を当てます。

財務分析の切り口

利益は仕組みが生み出す

収益性とは利益の程度ですから、利益率を計算すればいいというのは誰でも思い付くことでしょう。では、「利益率」を計算するとき、利益を何で割るでしょうか。
ほとんどの人は売上高で割ると思いますが、収益性を大局的に捉える上では、売上高で割る売上高利益率は望ましくありません。
なぜならば、利益は仕組みが生み出すからです。企業に投下された投下資本が資産という仕組みになり、この仕組みを使うことによって利益が生まれるのです。したがって、利益を投下資本で割った「資本利益率」が収益性の基本です。
それを具体化したものの1つがROAです。ROAの意味は「収益性の総合指標」です。総合指標ですから、分母には投下資本の全体である総資本を用います。
一方、分子の利益には事業利益を用います。事業利益とは、経常利益に支払利息を加えたものです。
経常利益を使うのは、企業においてコンスタントに発生する、いわば平均的な利益だからです。平均的な利益を使うのは、その方が企業の実力がよく分かるからです。たとえば自分のゴルフのスコアを人に聞かれたときにベストスコアやワーストスコアを答える人はいないでしょう。答えるのは大体の平均的なスコアのはず。その方がゴルフの腕前が実態に即して伝わると思うからです。ROAの計算に経常利益を使うのもこの発想と同じです。

ROAの利益にはこの経常利益を使うというのが話の中心です。実際、経常利益をそのまま使うバージョンのROAも多く見受けられます。
事業利益はこの経常利益に支払利息を加えたものです。支払利息を加えるとは、経常利益を計算する際に控除された支払利息を足し戻して、支払利息の効果を打ち消しているのです。利益は仕組みが生み出しますから、収益性とは仕組み、すなわち貸借対照表の左側のパフォーマンスです。ところが、支払利息は貸借対照表の右側にある負債が原因となっていますから、仕組みのパフォーマンスを見る上ではノイズになってしまうのです。
これはたとえば、家という仕組みのパフォーマンス、すなわち住み心地と、それをどの程度のローンを組んで買ったかということとは、別次元の問題であるのと同じです。

事業利益も制度上の利益ではありませんので、いくつかのバージョンがあります。日本では上記の「経常利益+支払利息」以外に「営業利益+受取利息+受取配当金」という定義式も見られますが、私は個人的には支払利息を足し戻す方を使っています。支払利息を足し戻す理由が明快だからです。逆に、営業利益に受取利息と受取配当金だけを加える理由が、少なくとも私にはよく分からないとも言えます。さらに、欧米では税引前当期純利益に支払利息を加算したEBIT(Earnings Before Interest and Tax)というものがあり、これが事業利益に相当します。
事業利益は、自ら支払利息を調整しなければならないので、少々面倒です。そのために経常利益バージョンがあるのです。経常利益バージョンは計算の簡便性のためです。
計算の簡便性という意味では、少数派ではありますが、営業利益を使うバージョンもあります。

コストを善玉と悪玉に分けて考える

ROAは計算しただけでは意味がなく、その優劣の原因分析をしなければ改善に結び付きません。原因分析するには、ROAを売上高当期純利益率と総資本回転率に分解します。

1つ目の売上高事業利益率は、売上高と費用との兼ね合いで決まります。そう言うと、「費用を削減すればいいのか」と思うかもしれませんが、そうではありません。費用には、キャッシュを減少させるだけの「悪玉コスト」と、売上高の源泉となる「善玉コスト」があります。悪玉コストは徹底的に下げていいですが、善玉コストはむしろ増やしてもいいのです。

総資本回転率は同業種で比較しないと意味がない

2つ目の総資本回転率は「金回り」を表します。企業は、総資本を元手で設備等の仕組みを作り、それによって商品やサービスを販売し、売上高という形で資金を回収します。 たとえば、コンビニのような小売業は店舗も借りていますから、大きな設備投資はさほど必要としません。このようなビジネスモデルは金回りがいいイメージで、総資本回転率も高くなります。一方、装置産業や設備産業は、最初に大きな投資をし、それを長期に渡って回収するビジネスモデルですから、金回りがよくありません。このような場合は総資本回転率は低くなります。
この例から分かるように、総資本回転率は業種特性が色濃く出ます。したがって、異なる業種で比較することにはほとんど意味がありません。

総資本回転率は、仕組みと売上高の比率ですから、人間でいえば体格とそれが生み出すパワーの比率を見ているようなものです。異なる業種で比較するのは、相撲の力士とマラソンランナーのどちらが優れたアスリートかを論じるのと同じくらい意味がないということです。
逆に言えば、同業種であれば、総資本回転率は似通ってくるはずです。富は仕組みが生み出す以上、業種が同じであれば両者の兼ね合いは似通ってくるはずだからです。ということは、同業種で総資本回転率を比較して違いが出た場合は何らかの問題がある可能性があります。
典型的な問題は、売上に貢献しない仕組みをたくさん持っているということです。これは、人間でいえばメタボ状態です。
同業種の比較の例として自動車メーカーを見てみましょう。主要6社の中で実はトヨタは万年最下位です。これはおそらく問題と言っていいでしょう。その影響が出たと思われるのがリーマン・ショック時です。売上高事業利益率をみると、トヨタの回復が鈍化しています。メタボ状態の体型では、業績改善に向けて走れと言っても、素早く動けなかったということなのではないかと想像できます。これはあくまでも仮説ですが、このような仮説を立てることが具体的な改善策を考える第一歩です。
トヨタは2016年4月からカンパニー制を導入しました。その理由は意思決定の迅速化のためです。裏を返せば、意思決定が遅くなっているという問題意識があったということです。それは組織のスピードが鈍っていたことを裏付けています。

【ケーススタディ】自動車メーカの収益性(2/3)

規模縮小も改善策の一つ

総資本回転率のグラフをあらためて見ると、2つのグループに分かれています。これは、先ほどの「同業種だったら同程度になるはず」という仮説に反しています。このデータから、新たに次のような仮説が立てられます。それは、総資本回転率は企業規模に反比例するのではないか、ということです。
これは実は非常に多くの業種で見られる傾向です。理論的には説明できませんが、規模が大きくなれば無駄が増え、動きが緩慢になるのは、直感的には納得できる話ではないでしょうか。

企業は成長すると必然的に貸借対照表が大きくなっていきます。ということは、すべての企業は成長によって売上高の絶対額は大きくなるものの、効率的に売上高を生み出す力は悪化していく傾向にあるということです。これを称して「大企業病」というのかもしれません。
従来は、「大きいことはいいことだ」という価値観が当然でしたが、最近はあえて企業規模を縮小する企業も出てきています。たとえば、米GE(ゼネラル・エレクトリック)は、あえて総資本を縮小するようなことをしています。多角化によってひたすら規模の拡大を追求してきたのがGEですから、大きな方針転換と言っていいでしょう。そして、それによって総資本回転率も明らかに改善しています。
業種にもよりますが、これからの時代は、いたずらに規模の拡大を追求しないことも1つの選択肢かもしれません。

欧米における収益性の考え方

最後に、欧米における収益性の考え方をご紹介しましょう。欧米で収益性と言えばROEです。欧米では株主重視という考え方が強いからです。
ROEは、総資産を使って当期純利益/総資産×総資産/自己資本と分解できます。このとき出てくる第1項目を欧米ではROAと言っています。これで4つ目のROAが登場しました。ROAだけでも4つは存在するわけです。
このROAは利益に当期純利益を使っていますから、「最終結論としてのROA」という意味になります。ですから、「平均的な儲ける力」ではなく、「起こった事実として収益性」を分析したい場合はこれを使うべきです。
これが、冒頭申し上げた、「分析目的に応じて式を使い分けなければ意味がない」ということです。

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