導入企業の社長が語る
次期システム構築に向けての社内プロジェクト体制と取り組み

講師サンリツオートメイション株式会社 代表取締役社長 鈴木一哉氏

多くの企業では、それぞれの視点に基づき、さまざまな情報システムが構築されています。では、企業にとってシステム構築成功の判断基準はどこにあるのでしょうか。自ら代表取締役社長を務める鈴木氏は「経営者の『思い』がどれだけ反映されているか、満たされているかにある」と語ります。そんな鈴木氏に、今回はシステムを刷新する際の社内プロジェクト体制や取り組みについて語っていただきました。

サンリツオートメイション株式会社は、CPUボード、I/Oボード、ラック、コントローラー装置など、産業用コンピューターシステムを開発する専業メーカーです。設立は1971年、従業員数は124名の中堅企業です。

システム構築成功の判断基準

当社のシステム構築成功の判断基準は、現行システムの構築時と変わっていません。それはシステムに経営者の「思い」がどれだけ反映されているか、満たされたかということです。システムがトラブルなく稼働することではありません。経営者ならではの『思い』を適量注入するのが秘訣なのです。

現行システムの構築半年後に行った調査で、

  • 1.目指す姿を反映した新業務プロセスになった
  • 2.社員が導入効果を実感し、前向きになった
  • 3.プロジェクトの一段落後、継続的改善が機能している

という3つのポイントが確認できて初めて成功を実感できました。とりわけ、構築して終了ではなく、社員による自発的な継続的改善が続いていることが重要です。

「競争力強化」のための業務改革・改善

ボード製品の生産管理機能のみだったシステムをリプレースし、現行システムとして「ボード&システム製品の生産管理&販売管理の統合」「品目別原価管理、プロジェクト損益管理」の導入には成功したが、次期システムは「競争力強化」を目指します。

なぜ今回、現行システムを改善するというレベルではなく、再構築を決断したかというと、そこには、「システム更新時こそが業務改革の絶好のチャンス」だからです。つまり、次期システムの構築というチャンスを最大限に利用して、業務改革・改善、人材育成の「機会」にするわけです。このため、情報システム部門ではなく、業務改革・改善の中核メンバーでプロジェクトを遂行しようと考えています。

競争力強化といっても、いくつかの指標があります。生産性と適合品質に関しては現行システムで実現できました。次回は生産リードタイムと開発リードタイムの大幅な圧縮に挑戦します。このリードタイム圧縮のため、システム一元化の範囲を拡大し、開発と生産の橋渡しを新機能として導入する予定です。

それでは、システム構築成功のため、どのような目標を掲げ、プロジェクトチームをどのように編成するのでしょうか。

次期システムの目標と仕様方針

これはまだまだ経営者の思いに過ぎず、これから社員と共有していく内容ですが、次期システムの目標として、まず実現したいのが、「機能間の連携強化による作業効率化・迅速化」です。特に現在は短納期化が進むと同時に、生産中止部品も増えており、これに対応できなければなりません。調達リードタイム短縮のために、「在庫管理(削減)高度化」も求められています。また、見える化を強化・迅速化するため、管理会計の機能も導入します。

ただし、身の丈に合ったシステムでなければいけません。使いこなすことができなければ意味がありません。システム構想検討時に使いこなせるレベルを見定めること。現行システムは入力ミスが多く、パート社員のリテラシーを考慮していないという反省点がありました。

プロジェクト体制と進め方

プロジェクトチームの目的はシステム構築ではなく、業務改革と改善にあります。このため、現場からスタッフを選り抜き、勉強会を開き、新業務のプロセスを構想させます。「もちろんベンダーにも相談し、選定が必要です。
ポイントとなるのはプロジェクトリーダー。現行システムでは、内部には適任がおらず、外部から採用しました。前回は幸運にも見つかりましたが、今回はリーダーもメンバーも世代交代したいと考えています。世代交代は高齢化が進んでいるためばかりではありません。人材育成が大きな目的であり、そのための抜擢・入れ替えはもちろん、改革・改善に不向きな担当者は積極的に入れ替えていきます。

プロジェクト成功のために

トップダウンでの改革では限界があるという認識に基づき、今回のプロジェクトについて人材育成を視野に入れたOJTの場と位置づけ、意識改革を徹底していきます。正社員の仕事は業務プロセスの改革・改善にあります。いわれたことだけやる社員は不要です。自ら問題を発見し、自律的に改革・改善を推進させていきます。

また、継続的改善を機能させるためには、ボトムアップでの経営革新が不可欠です。それに対して、トップの役割は、「明確でブレないwhyの提示」「適切なプロジェクトリーダーの任命」「プロジェクトリーダーとの共同作業でのwhatの明確化による共通認識の確立」「プロジェクトリーダーにhowを任せる権限委譲」です。
さらに、投資判断もトップの重要な任務です。費用対効果で判断し、どうしても資金が足りなければ段階的な導入の検討が必要です。

最後になりますが、プロジェクトの成功体験と自信は、組織能力強化につながりますので、システム再構築をぜひ経営革新の機会として積極的にトップが関わってください。

このレポートの講師

鈴木一哉氏
サンリツオートメイション株式会社 代表取締役社長

設立: 1971年3月
資本金: 1億3260万円
従業員: 124名
主要株主: トヨタ自動車株式会社(30%)
事業領域: 産業用コンピュータ・システムの開発、CPUボード、I/Oボード、コントローラ装置などのプラットフォームからアプリケーションの構築まで手がける。

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