IFRS対応の道しるべ
決定されたIFRS導入方針を総括する

講師監査法人 双研社 IFRS推進室/公認会計士 最首 克也氏

2013年3月から6月にかけて、一気に議論が加熱した今後のIFRS導入方針。主要関係者である金融庁、自民党、経団連などの思惑が一致し、今後3年間の方向性が確定しました。その方向性を踏まえ、どのように対応をしていくのかを考えるべき時が来ています。今回の決定事項や今後実施されるアクションなどを総括し、意思決定のために必要と考えられる情報を総合的に紹介します。

「IFRSへの対応のあり方に関する当面の方針」発表

2005年からEU域内の上場企業に対して適用が進められたIFRS。当時は極めてマイナーな基準であったIFRSが、わずか8年間で事実上、唯一の国際標準になりました。
日本では、2013年6月19日、企業会計審議会から「IFRSへの対応のあり方に関する当面の方針」が発表。「『IFRS任意適用要件の緩和』『エンドースメントされたIFRS(修正版国際会計基準)の策定』『単体開示の簡素化』の3つがここで決定されています。一つ一つはシンプルな内容ですが、その位置づけが見えない悩ましい存在です。

「IFRS任意適用要件の緩和」では、「上場企業」要件および「国際的な財務・事業活動」要件が撤廃され、金融商品取引法に基づいて有価証券報告書等を提出している企業なら、どの企業でも連結財務諸表にIFRSを使用できることになりました。また、「エンドースメントされたIFRS(修正版国際会計基準)の策定」では、我が国に適したもう1つのIFRSの作成が宣言されています。「単体開示の簡素化」では、会社法の要求水準への統一です。

国内的視点から:「第三の矢」に組み込まれたIFRS

政権交代を機に、IFRSについての意思決定主体の性質は大きく変わりました。特に、司令塔に当たる自民党は極めて積極的で、6月13日に「国際会計基準への対応についての提言」を発表しました。「前述の『IFRSへの対応のあり方に関する当面の方針』はこの自民党案を控えめな表現にしたに過ぎません。

その自民党案には4つの柱として「姿勢の明確化」「任意適用の拡大」「我が国の発言権の確保」「企業負担の軽減」が盛り込まれています。

とりわけ「姿勢の明確化」においては、「日本市場を世界最大の資本市場」とするという自民党の目標のもと、IFRSの導入はその政策の一環と位置付けられています。自民党が2000年前後から推進してきた金融・会計ビッグバンの総仕上げの時期が来ているのです。「この表現は審議会報告書では削られていますが、『2016年末まで』に、『300社』程度のIFRS適用を目指すという明確な目標が示され、海外からは驚きと歓迎の声が、国内からも評価する声が挙がっています。これを推進する意味からも、単体開示について、会社法の計算書類を活用し可能な限り開示の水準を統一し、「企業負担を軽減する」ことがうたわれているのです。

国際的視点から:陰の主役「金融庁」から見えるもの

IFRS政策の具体的展開の主体となっているのは金融庁です。同庁では国際舞台における日本の影響力向上を目指しており、広く国際ルールの策定に関与する中で、昨今、日本のポジションがじりじり上がっていることを実感しているそうです。

金融庁は、まず、IFRS財団メンバーの選定基準を日本寄りにシフトさせることに成功しました。具体的に決定されたのは「国際的な資本市場を有している国で、国内企業へ強制適用または任意の適用によってIFRSが市場で顕著に使用されているか、あるいはそこに向かって確実に進んでいる国」という条件であり、この条件は、日本が問題なくクリアできるようにデザインされたものです。「『IFRSへの対応のあり方に関する当面の方針』は、財団の示した基準に対する日本の回答です。日本は着実に前進しているということを示すためのものなのです。

そのコンセプトのもとに日本側が示した政策の1つが「エンドースメントIFRSの策定」です。「国際的には、『国内のコンセンサスを形成してゆくための試行」であると説明しつつ、実質的には『今後、IFRSに関し、どの部分で議論を戦わせるのか(IFRSの内容に関し、どこが日本として譲れないのか)』を明確にし、今後IFRSに日本の意見を戦略的に組み込んでいくための準備作業が、エンドースメントIFRSの策定なのです。

エンドースメントIFRSの策定により基準レベルでの議論の的は絞られ、また、基準間差異に対する対処方法の明確化(経団連による事例の公表)により実務レベルでも導入のハードルが下がり、コンセンサスができ上がってきたところで強制適用はいずれ宣言されると思われます。そして「今後リリースされる各種の情報に注意を払い、強制適用の開始が最短で予想される2019年までの十分な期間である5年間に、コツコツと準備を重ねていきましょう。

(オービック情報システムセミナー東京会場にて講演)

このレポートの講師

最首克也氏
監査法人双研社IFRS推進室/公認会計士

双研社グループ各社にて、上場企業の監査、コンサルティングに従事。IFRSについては、三菱UFJ信託銀行・大和証券・帝国データバンクなどで講演多数。

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