情報システムセミナーレポート[2019年 夏] 会計管理 戦略的管理会計とは?長期にわたる業績の維持・向上を実現
〜「意思決定会計」を使いこなせれば経営が読める〜

2019年6月14日(金) 東京会場

D42
14:50〜16:20
戦略的管理会計とは?長期にわたる業績の維持・向上を実現
〜「意思決定会計」を使いこなせれば経営が読める〜

和田 正次 氏
和田公認会計士事務所 公認会計士・税理士

経営者や経営幹部がさまざまな判断をするのに必要な管理会計、意思決定会計について身近な事例を通してわかりやすく解説しました。すぐに利用できるテクニックを組み入れた戦略的かつ実践的なセミナーは、多くの参加者から共感を得ていました。

業績向上のための意思決定(利益の生産現場を知る)

「管理会計には短期実践的な分野と長期戦略的な分野の2つの領域があります。実践的管理会計は売上・利益、そしてキャッシュフローの業績改善を目指すものであり、日常的な管理領域です。売上や利益の改善のための管理会計の知識や手法は誰もが知っておくべきでしょう。
一方で戦略的管理会計は長期の会社の進むべき道を定めるものであり、短期的な業績改善に終わらず、持続的業績改善に結びつけるための経営管理手法であり、経営者の的確な意思決定が要求されます。

意思決定の結果による業績への影響は金額的に大きく、また影響する期間も長期になります。大手企業の業績に多額の損失が出るのも、また連続増益の実現も戦略的管理会計分野にある意思決定の結果が影響しています。本日は戦略的な管理会計を身近な設例を使って解説します。ただし長期の意思決定を実践するには短期的利益改善の視点も必須です。和田氏はセミナーの冒頭でこのように管理会計の全体像を説明。そして、「まずは、ウォーミングアップ」と、会場に問題を出しました。

売上高100億円で営業利益10億円のA社、売上高50億円で営業利益10億円のB社があるとします。利益を生み出す力は、より少ない売上高で同じ利益を出したB社の方が大きいと言えるでしょう。さて、ここでもし両社の売上高がともに1億円増加していたとしたら、利益はそれぞれどれだけ増えたでしょうか。

A社の利益率は10%、B社は利益率20%です。過去のセミナーでは、8割以上の方が「A社は1千万円、B社は2千万円」と答えます。しかし、これは正しくありません。皆さんの会社で考えてみましょう。追加の売上による利益の増加の割合は決算書の利益率より高いはずです。売上から「変動費」を差し引いた額が「限界利益」です。「限界利益」から「固定費」を引いた額が「利益」となります。固定費が増えなければ、売上の増加による限界利益がそのまま利益の増加につながります。利益成長の原動力は限界利益にあり、そのパワーは抜群です。この問題の答えは会社ごとに同じではなく異なります。また同じ会社でも事業部ごとに異なっているでしょう。利益管理の要点は現場にあるということ。そして現場の見える化が管理会計の重要なテーマでもあります。

さて、この問題の解答は1億円の追加売上で生み出される限界利益となりますが、1千万円と2千万円の数字を使って、こう答えましょう。

A社B社ともに売り上げが伸びても固定費は増えるとは考えられません。
よって、A社は1千万円超、B社は2千万円超になります。

赤字案件も集まれば黒字?(赤字を黒字にする限界利益のパワーを知る)

限界利益と固定費に関連して、和田氏は興味深い事例を紹介します。

SSJ社は、取引先より販売管理ソフトウェアの制作打診があり、社内で費用を見積もったところ以下のようになりました。SSJ社はこの仕事を引き受けるべきでしょうか。

販売価格(先方予算) 3,000千円  
     
材料費 800千円 (変動費)
賃金(時間単価×制作時間) 2,000千円 (固定費)
その他経費 500千円 (うち変動費400千円)
————————————————————————————
費用合計 3,300千円  

売り上げ3,000千円に対して、費用は3,300千円。これでは300千円の赤字となります。
多くの方は引き受けるべきではないと判断するかもしれません。しかし、他に作業がない場合は、固定費となる賃金の2,000千円とその他経費の100千円が必要ですから、固定費の2,100千円が赤字となります。社員を遊ばせておくよりは、赤字でも仕事をした方がいいということになります。なぜならば限界利益が生み出せるからです。限界利益は赤字の圧縮に貢献しているのです。

さらに、同じ種類の赤字案件を引き受けますと、計2件でも固定費が変わらなければ併せて1,500千円の黒字になります。赤字案件も集まれば黒字になるというわけです。固定費を上回る限界利益が黒字になります。限界利益をいかに多く生み出していくかを考えること、これが利益改善の道です。

当月損益比較(千円)

安定成長のための意思決定(割引する理由、リスクに見合うリターンが必要だから)

引き続き、和田氏は会場に問いかけます。

Y製造では増産投資を検討しています。投資額は100百万円、この投資により生産量が増え、販売による増分キャッシュフローは4年間にわたり40百万円であると期待されています。
Y製造はこの投資を実行すべきでしょうか。

「ここで考慮すべきは、リスクの存在。そしてリスクに見合う十分なリターンが見込めるかどうかです」と説明します。数字上では4年間で40百万円、計160万円の回収ですが、ここにリスクが含まれていません。リスクの存在を受け入れて、管理会計はどのようにこの意思決定に関する問題を解決するか。問題解決に使用する手段が“割引計算”です。割引計算につかう割引率はリスクに見合った収益率であり、その水準を決定は経営判断です。経営判断ではありますが、判断の決め手はあります。ひと言でいえば企業価値向上に結びつく水準であることです。割引率は会社の実情にそって決定するレートであり、超えなければならないレート、すなわちハードルレートと言われています。なぜ、割り引くのか。それはリスクに見合うリターンが必要であり、その必要とするリターン(収益率)を割引率に用いているのです。将来の回収額(リターン)を現在価値に評価するのが割引計算、現在の投資価値(元本)から将来の回収額(リターン)を評価するのが収益計算です。

必要収益率(十分なリターン)を14%と設定し、1年後、2年後……と複利で計算すると投資価値は
116.6百万円となり、それよりも安い投資額(100百万円)ですから、「実行可能」と判断できます。

「財務会計は過去の会計であり、管理会計は未来の会計です。設備投資に必要なのは未来を読む会計であり、リスクを織り込んで判断することが必要です」と和田氏は解説します。

ブレーキの利かない経営は危険!

設備投資はその設備が生む収益だけにとらわれてはいけません。他の事業に刺激を与え、効果を生むかもしれません。M&Aを積極的に進めている企業もありますが、買収対象会社の業績だけで判断はできません。グループ内に組み込むことで、より大きな相乗効果を期待することができるからです。意思決定においては、意思決定前(現状)と意思決定後でグループ全体の利益やキャッシュフローがどう増加するかを評価計算します。

逆に「リスク」もあります。「リスク」は当初予定した成果とは違う結果となる可能性のことで、リスクは「振り子の振り幅」ということができます。リスクは損失だけではなく、利益の源泉となることにも注意が必要です。

ここで重要となるのは損失の拡大を止める「ブレーキ役」です。
「投資撤退の意思決定(損失拡大のブレーキ)は、投資実行の意思決定(利益拡大のアクセル)とセットで経営に組み込まれるべきものです」(和田氏)。

管理会計の目指すところは企業価値の向上にあります。価値を生まない会社は価値の分配ができません。「そのために、業績向上のための意思決定と安定成長のための意思決定。このバランスに注意し、持続的な業績向上を実現してください」と和田氏は強調し、講演を締めくくりました。

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