情報システムセミナーレポート[2019年 夏] 人事管理 労働基準監督署、2019年度の重点監督事項とその対策

2019年6月11日(火) 東京会場

A31
13:30〜14:30
2019年度における労働基準監督署の重点監督事項とその対策
労働行政運営方針と時間外・休日労働協定の適正化に係る指導の重点ポイント

佐藤 広一 氏
HRプラス社会保険労務士法人 代表社員 / 特定社会保険労務士 / 経営法曹会議賛助会員

毎年4月1日付で厚生労働省が「地方労働行政運営方針」を策定し、都道府県労働局がこの運営方針を踏まえつつ、各局内の管内事情に即した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、計画的な行政運営を図ることとしています。今年は4月から順次施行されている働き方改革関連法に先駆け、1月に「時間外・休日労働協定の適正化に係る指導について」が通達されました。これらを読み取ることで、2019年度の労働基準監督署の臨検監督動向とその内容が見えてきます。当セミナーでは今年度の労働行政における重点監督のトレンドを踏まえ、企業のとるべき実務対応についてお伝えします。

労働基準行政は監督、指導通じて働き方改革を推進

労働基準行政は厚生労働省本省の下に都道府県労働局があり、さらにその下に出先機関である労働基準監督署が配置され、行政指導の一環で、事業所へ立ち入り調査する「臨検監督」や各種許認可事務、届出審査、安全衛生指導、労災補償事務など実務を行っています。労基署の中でも方面課に配置される労働基準監督官の権限は強く、事業所を臨検監督したり、使用者(経営者)や労働者に尋問したりする行政上の権限だけでなく、刑事訴訟法の規定に基づき法律違反者を逮捕・送検する特別司法警察員としての職務も果たします。

佐藤氏は事業所を調査する臨検監督のフローを説明しました。
「定期監督はあらかじめ資料を要求されることが多く、年間計画に基づき事業所を3〜6カ月に1回程度実施。申告監督は労働者の申告に基づき実施され、まず事情聴取から始まります。重大な災害が発生した場合は災害調査として現場へ急行します」。いずれも法令違反があれば、是正勧告を行い、期日を指定して是正報告を求めます。また、法令違反が認められなかったとしても改善が望ましい場合には指導票を作成し、改善の報告を受けて完結します。これらに対応せず、是正せずに放置したり、隠蔽・改ざんが認められた場合には司法処分を余儀なくされることもあります。

今年度地方労働行政の重点施策は働き方改革と人材確保

それでは肝心の平成31年度「地方労働行政運営方針」とは何でしょうか? 厚労省は①働き方改革による労働環境の整備、生産性向上の推進等②人材確保支援や多様な人材の活躍促進、人材投資の強化③労働保険適用徴収担当部署の重点施策④毎月勤労統計調査に係る雇用保険、労災保険等の追加給付⑤東日本大震災からの復興支援――の5点を「平成31年度地方労働行政の重点施策」として掲げました。佐藤氏はこの中で「①働き方改革による労働環境の整備、生産性向上の推進等②人材確保支援や多様な人材の活躍促進、人材投資の強化――が特に重要」として詳しく説明しました。

「①働き方改革による労働環境の整備、生産性向上の推進等」は(1) 働き方改革に取り組む中小企業・小規模事業者等に対する支援等、9項目からなりますが、「優先順位をつけて取り組む必要があり、本丸は(2) 長時間労働の是正を始めとする労働者が健康で安全に働くことができる職場環境の整備等。次いで(3) 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保、(5) 総合的なハラスメント対策の推進――の順になります」(佐藤氏)。このうち「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」はいわば、同一労働同一賃金。「総合的なハラスメント対策の推進」は5月末にパワハラ防止法(労働施策総合推進法)が成立したことを受けたものです。
「②人材確保支援や多様な人材の活躍促進、人材投資の強化」としては、「外国人受け入れの環境整備と高齢者の就労支援・環境整備が特に重要です」(佐藤氏)。外国人受け入れの環境整備は、改正出入国管理法が4月1日から施行され、人材不足が深刻な14業種を対象に、一定の技能と日本語能力のある外国人に日本での就労を認めたことを受けた職安行政の措置です。高齢者の就労支援・環境整備は政府の未来投資会議で安倍首相が「人生100年時代を迎えて、元気で意欲ある高齢者の方々にその経験や知恵を社会で発揮していただけるよう、70歳までの就業機会の確保に向けた法改正を目指す」とした方針を受けた措置で、いずれも人手不足に対応する重要な施策です。

注視ポイントは長時間労働の是正、公正な待遇の確保、高齢者雇用

佐藤氏は今年度版の特徴として、「働き方改革関連法が成立し、本年度から順次施行されることから、その運用についての記述が多い」ことを第一に掲げました。従業員に残業や休日労働を行わせる際に必ず締結しておく36協定の見直しをはじめとする長時間労働の是正、年休の付与など課題は山積しています。「改正入管法の成立で、外国人労働者の活用を正面から取り上げている」ことも大きな特徴です。

今年度版が「今後、少子高齢化・人口減少が進む中、わが国の活力を維持・発展させていくためには、働き手を確保するとともに、ひとり一人の労働生産性を高め、継続的な賃上げの流れを後押しすることにより、成長と分配の好循環を推し進めることが不可欠」としているのは、政府が経済界に賃上げを要請する動きに表れています。そしてその実現に向けた最大のチャレンジが働き方改革であり、重点施策は「働き方改革は働く方のワークライフバランスを改善し、子育て、介護など様々な事情を抱える方々がより一層意欲をもって働くことができ、働く方ひとり一人がより良い将来の展望を持ち得る働き方を目指すものである。長時間労働を是としてきた日本の企業文化や風土など、働き方そのものについても根本から変えていく大きな転換期にある。このチャレンジを成功させるために、労働行政の果たすべき役割は極めて大きい」と厚労省としての決意を表明しています。

佐藤氏はこうした特徴を踏まえた上で、今年度版の注視すべきポイントとして、

  • ① 長時間労働の是正(36協定の遵守)
  • ② 公正な待遇の確保
  • ③ ハラスメント対策
  • ④ 外国人材の受け入れ
  • ⑤ 高齢者雇用

の5つを掲げ、それぞれ詳細に説明しました。

長時間労働の是正(36協定の遵守)は、限度基準告示を法律に格上げしたものです。
「1週40時間、1日8時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度は、月45時間、かつ、年360時間とする」という原則に、臨時的な特別の事情がある場合の特例として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても上回ることができない時間外労働時間の上限として、@)720時間(法定休日労働を除く)、A)法定休日労働を含み、2か月ないし6か月平均で80時間以内、B)法定休日労働を含み、単月で100時間未満、C)原則である月45時間の時間外労働を上回る回数は年6回まで――を掲げています。「平均80時間以内、100時間未満の遵守は36協定の有効期間をまたいだ場合でも求められます。有効期間で終わりではない。ずっと続くと肝に銘じてください」(佐藤氏)

長時間労働の是正(36協定の遵守)

適用除外から一般則適用など業務転換時の時間外・休日労働管理に注意

脳・心臓疾患の労災認定基準では発症直前から前日までの間に異常な出来事に遭遇したり、発症前1週間程度の間に特に過重な業務に就労したりした場合、業務による明らかな過重負担と判断され、発症前のおおむね6か月間に「発症前1か月間に時間外労動が概ね100時間超」「発症前2〜6カ月間の月平均時間外労働が概ね80時間超」のいずれかの場合は業務と発症との関連性が強いと評価されます。

一般則適用業務と適用除外・猶予業務等との間で業務転換した場合、同一の36協定によって時間外労働を行わせる場合は、対象期間の途中で業務を転換した場合においても、対象期間の起算日からの当該労働者の時間外労働の総計を当該36協定で定める延長時間の範囲内としなければなりません。たとえばタクシー会社において、猶予期間のある自動車運転業務の場合、年600時間の時間外労働をしたうえで、配車管理など一般則を適用する業務に転換したら、年720時間の上限が適用され、配車管理での残業上限は年120時間となります。

出向で、出向元と別の36協定の適用を受ける場合、出向元と出向先の間で特段の取決めがない限り、出向元における時間外労働の実績にかかわらず、出向先の36協定で定める範囲内で時間外・休日労働を行わせることができます。猶予が適用される出向元で年720時間だった場合、通算しないで、一般則適用の出向先でも年720時間となります。
一般則適用の業務同士の間で出向した場合も同じですが、「月の時間外・休日労働が100時間未満で2〜6カ月の平均が80時間以内の場合は通算されます。頭にしっかりいれておいてください」と佐藤氏は注意を促しました。

36協定で長時間労働を招く恐れがあるものは定められない

36協定で定める労働時間の延長及び休日労働について留意すべき事項等に関する指針によると、「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものを定めることは認められません。労使当事者は36協定において限度時間を超えて延長時間を定めるに当たり、労働時間の延長は原則として限度時間を超えないものとされていることに十分留意し、当該時間を限度時間にできる限り近づけるように努めなければなりません。

限度時間を超えて労働する労働者に対する健康福祉確保措置は、医師による面接指導、深夜労働の回数制限、勤務間インターバル、代償休日または特別休暇の付与などから協定することが望ましいとされています。行政官庁は当分の間、中小事業主に対し労働時間の動向、人材確保の状況、取引の実態等を踏まえて行うように配慮します。

労働行政は時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場及び長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場に対する監督指導を引き続き実施します。働き方改革関連法による改正後の安衛法の内容を踏まえ、@)労働時間の状況の把握については管理監督者や裁量労働制の適用者を含めた全ての労働者が対象となる、A)労働者への通知が面接指導の対象要件について 1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えた者から80時間を超えた者に拡大された、B)研究開発業務従事者及び高度プロフェッショナル制度適用者に基づく面接指導については労働者からの申し出が不要とされているーーことなどについて、重点的に周知、指導します。

裁量労働制、複数事業所で不適正運用の場合、企業名を公表

違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する局長等による指導の実施及び企業名の公表の取組を徹底します。「新たに明確化された裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた場合は、局長が経営トップを指導し、企業名を公表します」(佐藤氏)。これらの監督指導等は、全ての労基署に編成した「労働時間改善指導・援助チーム」のうち、労働時間改善特別対策監督官により編成する「調査・指導班」が実施します。「今年度はとにかく労働時間の適正管理が重要です」と佐藤氏は注意を促します。

労働行政は重大又は悪質な事案に対し、司法処分も含め厳正に対処します。労働契約の締結の際の労働条件の明示や36協定の締結・届出について、使用者に対する指導を徹底するほか、解雇、賃金不払等に関し労働基準関係法令上問題のある申告事案について、その早期の解決のため迅速かつ適切な対応を図ります。働き方改革の推進に向けた中小企業における労働条件の確保・改善のため、監督指導の結果、下請中小企業等の労働基準関係法令違反の背景に、親事業者等の下請代金支払遅延等防止法等違反が疑われる場合は中小企業庁や公正取引委員会、国土交通省に確実に通報します。

同一労働同一賃金で公正な待遇を確保

佐藤氏は注視すべきポイントの2つ目に掲げた「公正な待遇の確保」について、まず「業務の内容や責任の程度、配置の変更(人事異動)などに何らかの違いを設けられなければ賃金に差はつけられません」と前置きしました。同一労働同一賃金を検討する際の2つの着眼点として「比較対象者間の不合理性」と「説明義務」と2つを掲げ、「改正パートタイム労働法、改正労働者派遣法のいずれも基本給や賞与、その他待遇のそれぞれについて不合理と認められる相違を設けてはならないとしています。改正パートタイム労働法では賃金規程の見直しまで踏み込みます」と強調します。

平成30年4月以降は契約を更新し5年を超えた有期契約労働者に無期転換申込権が発生しています。今後、無期労働契約に転換する労働者が出てくることを踏まえて、労使への周知啓発の徹底や相談対応等により、無期転換ルールの円滑な運用や、これを契機とした多様な正社員制度の普及を図ることが必要であるとされています。実際に雇止めにあったなど、労働者等から無期転換ルールに関する相談を受けた場合には、相談者の意向を踏まえ、とりうる手段を教示するなど、適切に対応するとしています。

相談体制の整備などハラスメント対策を推進

令和2年4月1日、パワーハラスメント防止対策を盛り込んだ改正労働施策総合推進法が施行されます。概要は@)事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務(相談体制の整備等)を新設し、あわせて、措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定を整備、A)パワーハラスメントに関する労使紛争について、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、措置義務等について履行確保のための規定を整備――の2点が主なポイントです。

改正労働施策総合推進法によると、事業主は職場の優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、雇用する労働者の就業環境が害されることのないように、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な措置を講じなければなりません。職場におけるハラスメントは、妊娠した女性がセクシュアルハラスメントと妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメントを受けたり、またセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントを同時に受けるなど、複合的に生じることも多く、労働者の意欲・能力の発揮を阻害し職場環境を悪化させることから、総合的・一体的にハラスメント対策を行う必要があります。

セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント等ハラスメント被害を受けたことにより、通院する、又は、心身に変調を生じるなどの事案が増加していることも踏まえ、職場におけるハラスメントに関する労働者及び事業主等からの相談に対し必要に応じて労災請求に関する相談窓口を案内することも含め、適切に対応するとしています。ただ、改正労働施策総合推進法には、具体的にどのような雇用管理上の措置を講じなければならないのか明示されておらず、今後、策定するパワハラ指針において具体的に示される予定です。

14の産業分野で外国人材を受け入れ

外国人材の受け入れの特定技能制度は1号と2号からなり、1号は「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」、2号は「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」をそれぞれ指します。特定産業分野として、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14業種があり、このうち特定技能2号は建設と造船・舶用工業の2分野のみ受入れ可能です。

在留期間は特定技能1号が1年で、6か月または4ヵ月ごとに更新する必要があり、通算上限が5年。特定技能2号は在留期間が3年で、1年または6か月ごとに更新します。家族の帯同は特定技能1号の場合、基本的に認められませんが、特定技能2号は要件を満たせば可能です。

労働行政は技能実習生について、労働基準関係法令違反があると考えられる事業場に対し重点的に監督指導を実施し、重大又は悪質な労働基準関係法令違反事案に対しては、司法処分を含め厳正に対処するとともに、出入国在留管理機関及び外国人技能実習機構との相互通報制度を確実に運用するとしています。

高齢者雇用は70歳まで就業機会を確保

政府が5月15日開いた未来投資会議は「65歳から70歳までの就業機会確保については、多様な選択肢を法制度上許容し、当該企業としてはそのうちどのような選択肢を用意するか労使で話し合う仕組み、また、当該個人にどの選択肢を適用するか、企業が当該個人と相談し、選択 ができるような仕組みを検討する必要がある」としています。

労働行政は高年齢者が年齢にかかわりなく働き続けることができる生涯現役社会を実現するため、企業における65歳以上への定年年齢引き上げや66歳以上の継続雇用延長に向けた環境を整えていきます。具体的には高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に助言・指導し、改善がみられない事業主に対しては企業名公表も視野に入れた勧告を行います。

時間外・休日労働の適正化指導に基づき働き方改革を推進

最後に佐藤氏は時間外・休日労働協定の適正化に係る指導について触れました。窓口において、記載事項に不備がある場合は、リーフレットによる説明、新指導文書の交付をしたうえで、協定届を受理せず返戻します。指導指針にある労使当事者の責務、限度時間を超える時間外労働の短縮、割増賃金率などで再検討を指導します。「こうした指示に従い、みなさんの会社で法律を遵守した働き方改革を進めてください」と佐藤さんは来場者を励まして話を締めくくりました。

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