情報システムセミナーレポート[2018年 秋] 会計管理 経理社員はAIにどう向き合うべきか?

2018年10月26日(月) 東京会場

D32
13:10-14:30
AIに経営者や経理社員はどのように向き合うか
AI経理 良い合理化 最悪の自動化

前田 康二郎 氏
流創株式会社 代表取締役

経理はAIに代替される業務でしょうか? 本講演では、売上・利益の伸長、予測・分析などにAIを使うべきとし、経理社員とのすみ分けを提案。経営者や経理社員はAIとどのように向き合い、使いこなし、自身や会社を向上させていくべきか。経理とAIに精通している前田氏が解説しました。

AIに「できること」「できないこと」

従来型の経理ソフトから、クラウドで提供されるAI系ソフトに乗り換える企業が増えてきました。これに対し、経理業務の経験者でありAI開発企業とも親交のある前田氏は、警鐘を鳴らします。
「近年、簿記や経理実務の経験のない方が経理ソフトの選定権限を持つケースが増えていますが、その際は、事前に経理社員、税理士、会計士などへの相談をおすすめしています。原価計算を始め、業種によっては複雑、ボリュームのある会計処理をしているケースがあり、AI系のソフトが機能としてまだその全てを網羅しきれていないこともあるからです」(前田氏)。

AIは万能というイメージがありますが、実際には「できること」と「できないこと」があります。人間と同じ感覚で社内を行き来して動き回ったり、雑談をしたりするようなことも、実用化レベルまではまだまだ開発途上です。AIは将棋や囲碁とは相性がいいと言われますが、これは「例外」が生じないからです。ルール違反した段階で「負け」と判定されるからです。AIは例外のない環境では大量の処理をこなすことは得意ですから、これを経理業務に置き換えるとしたら、国内交通費の精算、国内の売上請求書の作成などは例外がない、あるいは少ないので、AIが人間の肩代わりをすることは可能でしょう。

<AIが得意なこと(AIが行う方が早いもの)>
☆例外がなく、処理量が大量にあるもの
例)国内交通費の精算、売上請求書の作成、口座引落関連など

<AIが苦手なこと(人間が行う方が早いもの)>
☆例外処理、ソフトの初期設定、追加設定

  • 複雑な計上、消込(按分計上、相殺、分割振込、入金、滞留債権対応…)
  • ビジネスモデル、ワークフローの立て付け、不正防止など

AIが苦手とする「例外処理」「不正防止」

ところが、現実世界の経理業務では例外処理が日常的に発生します。経理業務はルールに従った処理をおこなうのが基本ですが、「今回だけすぐ振込」「今回だけ〇〇円の相殺」といったことなどがあり、これらの事象は経理の事情ではない「外的要因」として「例外処理依頼」が発生します。規則性もないわけです。また、「売上・原価の按分計上」「前払・前受」といった場合は、契約内容、請求内容そのものをAIが文書から読解しないと正しい会計処理の仕訳を生成することができない、といった課題があります。合理化まではできても無人化は現実的にはまだ難しいと思われます。ですから安易に人員を減らす、無人化してしまうと内部統制上、リスクが生じる企業も多いと思いますのでこの点は気を付けて頂きたいです。

また、クラウドソフトにおいて、例えば国内経費精算に関しては、ほぼどのソフトもパターンを網羅できていると思うのですが、海外経費精算に関しては現状未対応や開発中のソフトもあります。国内の経費精算しか発生しない企業であれば、クラウドソフトを導入すれば良いですが、海外出張の多い企業が海外未対応のクラウドソフトを導入すると、「国内の経費はクラウド、海外の経費は従来通りエクセルで」申請をしないといけない、というような2重構造となり、むしろ処理が煩雑になります。新たなソフトを導入して反対に現場の生産性が低下するということにならないように、会社の状況に見合うソフト選定をする能力が経理には求められる時代になるでしょう。

そして不正の発見に関しても、AIが全て見抜けるということではありません。たとえば私物の領収書やキックバックが入った請求書が申請された場合、領収書や請求書自体は形式上「本物」なわけですから、経理社員を置かずに自動化していたら私物かどうかなどノーチェックでそのまま承認、計上してしまうことでしょう。銀行のATMや電車などの自動券売機は、投入口の部分で、紙幣や硬貨を本物か偽物かを見分けている、つまりそこで例外を排除しているので、その先の自動化、無人化が可能なわけですが、経費精算はこれらとは種類が異なります。ATMや自動券売機の場合は「本物の中には本物しかない」のですが、経費精算は「本物の中に偽物がある可能性がある」のです。

だから仮に経理社員を無人化して経費精算処理を行った場合、人間のチェックが皆無になることで、私的な領収書の総額が自動化によって削減した人件費を簡単に上回る事象が起きる可能性は十分あるのではないでしょうか。そうなったら「最悪の自動化」ということになります。
経理上の不正防止の最終確認は、処理自体は合理化しても、無人化せず牽制の意味も含めて人間のチェックは引き続き入れたほうがよいと思います」(前田氏)。

AIと経理作業との相性

一方、「予測・分析」の業務は、理論上、規則性のある形で集計や作成がなされることが多いでしょうからAIの圧倒的な計算能力を活かすことができます。これまで人間の手作業では限界を超えるのであきらめていたような予測や分析も可能になってくるはずです。たとえば次のような分析アプローチも興味深いのではないでしょうか。

顧客情報と実際の売上の相関性

今まで漠然と見ていた顧客情報の細部に至るまで、売上などとの相関関係を分析することができるでしょう。

費用の勘定科目と売上との相関性

一部の経費だけでなく全ての経費と売上などとの相関関係を分析することができるでしょう。売上が鈍ると経営層は販管費や営業経費の削減に着手しがちですが、それが本当に正しいのかどうかも検証できるでしょう。

個人別損益分析

従来、製品別や部門別などまで出せている損益分析を、個人単位まで紐づけすることができれば、人事評価にも活かせますし、優秀な社員の行動パターンを「見える化」することで、他の社員もそれを参考にすることで会社全体の利益率が改善できる可能性があります。

また、近年は企業の資金調達方式も多様化し、投資家が出資をするケースも増えました。その場合、直近の売上が未発生、軽微な会社は、過去資料よりも未来資料の提出を厚めに投資家から依頼されることもあります。たとえば「月次ベースの予測BS」など、経理社員が手作業で行うとそれなりに時間がかかるものなども、AIの活用で、作成の簡便化は可能ではないかと思います。

「経理社員」にしかできないことは何か

現時点ではご存知のように、自動的に収益を改善するソフトウェアというものは存在しません。ここに経理社員の存在意義のヒントがあるように思います。収益改善を可能にするのは人間の指導力にかかっており、それこそが経理社員の本来の役割、存在意義の本質ではないでしょうか。

「利益は社員1人ひとりの『行動習慣』が改善されなければ上がりません。
人間は怠惰な生き物で、常に背中を押してくれるものやヒトが必要です。全社員に期日管理を徹底してもらい、経理状況をガラス張りにする。こうしたコミュニケーション能力と気迫を持っている経理社員が必要です」と、前田氏は訴えます。

本来、伸びている会社は経理に限らず、全部署で人材が多めに必要になるはずです。
「経理の人員が単純に減るということは、合理化・自動化したから、というより、会社の自力成長が止まったということではないでしょうか。成長企業であれば、合理化・自動化を相殺してしまうほどの勢いで新規事業やプロジェクトなどが通常発生しますので、実際プラスマイナス0で減らないのです。新規のものがなく、合理化だけが進む企業はおのずと経理社員は減るでしょう。AIの導入は、人を減らすためというより、人を極力増やさないため、人手不足の補完のための合理化、のほうが日本語としては望ましい表現かもしれません」(前田氏)。

経理社員とAIのすみ分けが必要となる時代です。AIには主に例外のない「過去処理」をまかせ、空いた時間を「予測・分析」に回し、経営を支援する資料の作成、そして不正防止、内部統制、改善の提案をしましょう。
「経理社員はプロフィットコントローラーになるべきです。そのツールとして、AIを理解し、今後の動向にも引き続き注目してください」と前田氏は会場に呼びかけました。

<経理社員とAI業務の住み分け>
<AI…処理主体>

  • 経理処理(例外のないもの)
  • 集計(PL部分・その他の情報:取引先など)
  • 予測資料(予算、着地見込、資金繰り、中長期計画値等)

<経理社員…コミュニケーション主体、PLの改善>

  • 経理処理(例外部分)、最終数値の確認
  • ワークフロー、ビジネスモデルの立て付け
  • ツールの活用施策(AI、会計ソフト、Excelなど)
  • チェック・内部統制(不正防止、ツーオペレーション)
  • AIの算出した指標の分析(数字、数字とそれ以外の情報の相関性)
  • PL改善の提案
  • 現場教育(計数感覚の育成)
関連ソリューション
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