情報システムセミナーレポート[2018年 秋] 会計管理 IFRSの本質と最新動向―経営へのインパクトを分析

2018年10月26日(月) 東京会場

D11
9:40〜11:00
『経営管理を会計の視点で考える』シリーズ 第5弾
IFRSの本質と主な特徴 〜最新動向から企業経営に与えるインパクト〜

金子 智朗 氏
ブライトワイズコンサルティング合同会社 代表社員 / 公認会計士 / 税理士

日本におけるIFRSの任意適用会社が約200社に達しました。社数はわずかですが、時価総額は全体の30%を超え、かなりの存在感を持ち始めました。しかも非上場企業にとってもIFRSは無関係ではありません。今回はIFRSの本質的な特徴と主な各論を解説し、2021年に日本に導入される「収益認識に関する会計基準」、さらにはIFRSが経営や経営情報の基幹システムに与える影響、これから求められる経理人材についても詳しく説明しました。

IFRSは会計基準の世界共通言語

EUが2005年に域内の上場企業にIFRSを強制適用してから、カナダ、米国、日本が相次いで強制適用の方針やロードマップを発表しました。ところが、米国はその後、11年に米国基準を使い続ける方針に変更。その直後、日本も事実上の強制適用見送りを発表しました。

その後しばらく日本は迷走期間に入りますが、13年に日本はIFRSの任意適用要件を緩和し、「IFRSによる連結財務諸表の適性確保への取組・体制整備をして」いればIFRSを採用できるようになりました。

任意適用要件の緩和によって日本は明らかに潮目が変わりました。IFRSを適用している日本の上場企業は要件緩和から急激に増え、適用済みと適用決定を合わせると約200社。上場企業の数からみると5,6%に過ぎませんが、金子氏は「時価総額は全体の30%に達し、市場に大きな影響力がある企業が適用していることがわかります。今後も着実に増えていくのは確実です」と強調します。

IFRS任意適用会社数の遷移(上場企業)

IFRS任意適用会社数の遷移(上場企業)の図

「会計基準は企業にとっての言語です。現在、IFRSを正式に採用していない主要国はアメリカと日本ぐらいです。それ以外の国はみんな“IFRS語”をしゃべっているのです。上場・非上場を問わず、必要に応じてIFRSの読み書きができなければ、世界でビジネスはできません。実際、会計基準の違いが一つの障害になって日本企業と中国企業の業務提携が決裂しことがありました。これは、IFRSが既にビジネスの世界における共通言語となっていることを痛感させられる出来事でした。」(金子氏)。

原則主義と時価重視の資産・負債アプローチ

IFRSの本質的な特徴は、従来の細則主義ではなく原則主義に基づいていることと、時価重視の姿勢です。原則主儀について、金子氏は「校則でスカートの長さなどを細かく決めるのではなく、『人に迷惑をかけることをしてはいけません。以上』と原則を決め、個別の案件は『学級会を開いて話し合ってください』としているのがIFRS。」と説明します。

さすがに上記の例えは大袈裟ですが、実際のところ、IFRSには個別具体的な規定が少なく、機械的な定量基準や簡便法などの逃げ道もありません。個別具体的な規定がない場合は、原理原則に照らして合理的に判断することが求められるため、必要となるのは「税法や通達に通じた知識ではなく、論理的な判断力」(金子氏)です。税法に定められた法定耐用年数通りに減価償却していればいいということは通用せず、監査も最終的には原理原則に照らして合理的かどうかで判断されるようになります。企業が採用した会計方針についての説明が必要となるために、一般的に有価証券報告書の注記の分量も増えるでしょう。

利益概念が変わる

利益概念が変わるの図

もうひとつの時価重視の資産・負債アプローチは、利益概念を変えることになります。従来は、「利益はP/Lで計算されるもので、それが純資産増加させる」という収益・費用アプローチで利益が捉えられていました。しかし、IFRSでは「純資産の増加が利益」という資産・負債アプローチを採ります。そして、その資産と負債に対して積極的に時価(公正価値)を適用します。その結果の純資産は、ファイナンス理論で言うところの株主価値に近づいていきます。究極的には「株主価値の増加が利益、というのがIFRSの利益概念なのです」(金子氏)。そして「純資産増加の内訳明細が損益計算書」(金子氏)という関係になり、貸借対照表と損益計算書の主従関係が逆転することになります。「IFRSが株主に対する情報提供に軸足を置いている」(同)ことの表れでもあります。

減価償却、減損・リース処理も合理的に判断

金子氏は主な個別論点として、IFRSにおける固定資産の減価償却、減損処理、リース処理について詳しく説明しました。減価償却は耐用年数、残存価額、償却方法の3つとも経済的実態に即して決定しなければなりません。「税法に基づく減価償却がIFRSで合理性を持つとは限りません。たとえばパソコンの耐用年数は減価償却で4年と定められています。もし、償却が終わっても使い続ける場合、5年目以降のパソコンは資産からなくなります。企業に存在しているのに貸借対照表に計上されていないのは、企業の経済的実態を表しているとは言えないでしょうというのがIFRSの考え方です。」(金子氏)。

償却方法については、「資産の将来の経済的便益が企業によって消費されるパターンを反映したもの」とされています。金子氏は「前半の傾斜がきつく後半はほとんど使わないという定率法は使えなくなり、定額償却ならOKというイメージがあるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。IFRS適用会社の中には定率法を採用している会社はあります。要は定率採用を論理的に主張できるかにかかっています」と注意を促します。

減価償却単位は「重要な取得原価を持つ構成要素単位ごとに償却する『コンポーネント・アプローチ』が採用されます。たとえば航空機は機体とエンジンに分割して、それぞれの耐用年数を考慮して償却します。耐用年数は部品の耐久力、使用する環境や使用頻度によって異なるわけですから合理的な考えではありますが、償却単位が増えますから実務的な負荷は増えるでしょう」(金子氏)。

さらに、IFRSでは耐用年数、残存価額、償却方法について、少なくとも毎事業年度ごとに見直すことが求められます。これは日本基準では継続性の原則違反になりますから、日本基準ではありえない考え方です。IFRSが時価会計を重視しているということの意味は、その時々のカレントな情報を重視するということですから、これもIFRSの原理原則に即した規定と言えます。

固定資産の減損の基本的な考え方は日本基準もIFRSも同じですが、細部の規定が異なります。日本基準は、まず簿価を割引前の将来キャッシュフローと比較し、そこで引っかかったものだけを割引後の将来キャッシュフローと比較する方法を採用し、かつ事後的に戻入れの兆候があっても絶対に戻入れしない、“敗者復活戦なしの予選決勝方式”です。それに対して、IFRSは、最初から簿価を割引後の将来キャッシュフローと比較し、戻入れも認める“敗者復活戦ありの決勝一発勝負方式”です。

リース取引ついては、これもファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分けて処理をするという基本的な考え方は同じでしたが、2019年1月からIFRSは両者の区分を撤廃して、原則的にすべてのリースについて資産・負債に計上するように改正されます。この改正は借り手側企業には大きな影響が出るでしょう。

金子氏は「ファイナンス・リースはB/Sが水ぶくれしROAが悪化するため、多くの企業はオペレーティング・リースになるようにリース契約を組みます。欧州の航空会社の中には、航空機が1機もB/Sに計上されていない航空会社がありました。すべてオペレーティング・リースになるようにリース契約していたからです。これはさすがに経済的実態を表していませんから、リース会計基準が改正された理由がわかります」と背景を説明しました。今後、日本の会計リース基準にも影響がある可能性もありますが、具体的にどのような影響がでてくるかはまだわかりません。

開発支出は無形資産 のれん償却は認めず

研究開発費は日本基準ですべて発生時に費用として処理しますが、IFRSは支出を研究局面と開発局面に分けて処理を分けます。研究費は、日本基準同様、発生時に費用処理します。開発費は、製品として販売して売り上げに貢献する可能性が高まったという要件を満たした場合は、無形資産に計上し、数年にわたって償却します。ソフトウエアは無形資産の規定に従って処理し、自社利用か、外販する標準仕様のパッケージか、受注開発か、など日本基準のような特別の規定はありません。

「のれん」は買収額と純資産額(会計の値札)の差額であり、買い手が感じた主観的な魅力といえます。主観的な魅力ゆえ、「将来のビジネスに役立つかもしれませんが、単なる無駄遣いだったかもしれません。要するに、資産として不確実性が高い」(金子氏)という点が問題になります。これに対して、日本基準では20年以内に均等償却することになっていますが、それは最長20年で資産から消えてなくなる自動消滅装置を仕掛けたということです。それに対して、IFRSは理詰めで考えます。将来の収益に対する役立ち方が不明である以上、償却のしようがないと考えるのです。その代わり、IFRSは毎期厳格な減損テストを求めています。ただし、今後はIFRSものれんを償却対象にする可能性もあります。

変わる収益認識 代理人は手数料のみ売上計上

収益認識、すなわち売上高の計上は、顧客との契約や履行義務の識別、取引価格の算定・配分などのステップを踏みます。このうち取引価格の配分は「支配の移転」時期が異なる複数契約の場合、「支配の移転」ごとに収益を認識します。たとえば独立して売るとき、60万円のハードと30万円のソフト、10万円のサービス(コンサルティングや開発、保守など)を80万円で一体販売した場合、それぞれ独立して販売した場合の価格を参考に80万円の内訳をハード48万円、ソフト24万円、サービス8万円として、サービスが未提供の場合、ハードとソフトの合計72万円を当期売上高とします。

取引の本人ではなく代理人の場合、取引額の全額は計上できず、手数料相当額しか売り上げとして計上できないのもIFRSの特徴です。

日本は、「収益認識に関する会計基準」を2021年4月以降に始まる事業年度から適用しますが、これはIFRSの収益認識基準を原則的に全面的に取り入れるとともに、一部日本独自の修正を加えたものです。

連結財務諸表は、IFRSでは親会社と子会社・関連会社の一体性がより強く求められます。たとえば、日本基準では、会計基準が日本基準、米国基準、またはIFRSである場合は、そのまま連結することが容認されますが、IFRSではすべてIFRSに統一してから連結することが求められます。

論理的に考え論理的に説明できる主体性と思考力が必要

IFRSは投資家に情報を提供することを目的とする財務会計であり、それを内部の経営管理者がそのまま使うには向いていません。「IFRSのような従来と異なる会計基準にいたずらに経営管理が振り回されないようにするための最大の自己防衛策は、会社の価値観や経営思想に基づく確固なる管理会計を構築しておくことです」(金子氏)

IFRSに対応するシステム作りには3パターンあります。1つは総勘定元帳の段階から日本基準とIFRSの二重持ちにする「元帳二重方式」。2つ目は、IFRSベースの連結財務諸表を作成してから、それを日本基準ベースの連結財務諸表に組み替える「IFRSベース方式」。3つ目は、日本基準ベースの連結財務諸表を作成してから、それをIFRSベースの連結財務諸表に組み替える「日本基準ベース方式」。「いずれの方法も一長一短があるため、それぞれの企業のニーズに応じてしっかりしたIT戦略を立てることが重要です」(金子氏)。

米国の大手IT企業は会計システムとその業務拠点をグローバル規模で1ヶ所に集約し、購買と販売、会計の業務プロセスを標準化。世界中のグループ会社が共通のITインフラで共通のアプリケーションを使える体制を敷いており、「IFRSに会計基準を統一するからこそ、実現できる連結決算の効率化手法」(金子氏)の賜物です。

IFRSは原理原則、合理性を重視する財務会計基準ですから、会計に関わる人に求められる重要な資質は「自分の頭で論理的に考え論理的に説明できる、主体性と思考力、プレゼンテーション能力」(金子氏)です。英語力や数学的素養も必要で、「求められる資質が変わる」と金子氏はIFRSを概念から技術まで理解して使いこなせる人材教育の必要性も力説して話を締めくくりました。

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